ガラクタのカタログ

グレーター・アングリア置き換え前夜

三井物産が40%を出資するGreater Anglia(GA)は、ロンドンのシティに近いLiverpool Street駅を拠点に、CambridgeやNorwichなどイースト・アングリア地方の中距離列車を中心に運行中なのに加えて、同地方のローカル線も運営しています。同社が2016年にフランチャイズを獲得した際の条件の1つに、現有車両全てを2020年までに新型車両に置き換えることがありました。2018-19年は旧型車両が活躍する最後の年だったわけです。ここでは、最後の輝きを放っていた国鉄形車両を中心にざっとまとめてみました。

GA社はこの直後、クラス720電車、クラス745電車とクラス755バイモード車両の3形式を投入。しかし、いつもの如く新型車両の調整に手間取った上に、新型コロナウイルス感染症で甚大な被害を被ったため、置き換え計画は例によって年単位で遅れました。


Great Eastern Main Line (GEML)

Liverpool StreetからColchesterとIpswichを経由してNorwichまでの約185キロを結ぶ本線で、Shenfieldまでは複々線となっています。各駅停車はTfLレール(2022年からクロスレール)が担当し、Greater Anglia社の列車は急行線を走行。途中駅ではSouthend Victoria線など幾つかの支線が分岐しています。


Class 90

鉄道ファンの間で人気だったのは、国鉄クラス90電気機関車が牽く客車列車。Liverpool StreetとNorwichを2時間で結ぶ速達列車に充当され、30分間隔で運転されていました。1987-90年に製造されたクラス90は流線形の車体が印象的で、これが最後の定期旅客運用でした。InterCity 225に一見似ていますが、クラス90の最高速度は177キロ(110マイル)で、従来の車両とほぼ同じです。



DVT

客車の方は、1975-88年に製造された国鉄マーク3で、InterCity 125非対応。1等車とビュッフェ車を含む7~9両に荷物制御車が付き、下り列車は推進運転でした。つまり、機関車と併せて最長11両編成だったわけで、迫力は十分でした。



Slam door

ちなみに、GA社のマーク3は初期車から最終増備グループまで多岐に亘り、2015-16年にリニューアル工事を受けていましたが、手動の客用扉は更新されませんでした。この手動ドアはバリアフリー(アクセシビリティ)非対応で、2020年4月1日以降は運転出来ないことになっていました。期限延長もあり得ましたが、新型コロナウイルス感染症と都市封鎖による大幅な減便に伴い、クラス745電車の投入完了を待たずに全廃。なお機関車は貨物列車へ転用されています。



Class 321

国鉄クラス321電車は1988-91年に製造され、GEML及び西海岸本線の普通列車に投入されました。一時期は後述のCambridge方面への列車にも使用され、更に他社でイングランド北部などでも運用されていましたが、現在はGEMLのみで使用されています。もっとも、Norwichへはラッシュ時に走るのみで、基本的にはIpswich以南及び支線直通列車に充当されています。



Class 321

イギリスの鉄道車両は、前の運行会社の塗装のままロゴだけ貼り替えた車両が少なくないですが、GA社のクラス321はなかなかバラエティ豊かです。なお、姉妹形式にクラス320と322電車がおり、後者が2020年からクラス321に交じって使用されています。いずれも未だかなりの数が残存しています。



Class 360

クラス360電車は2002-03年に投入されました。こちらもクラス321と同じように使われていましたが、両者は併結出来ないため運用は分けられていました。塗装は大半がNational Express East Anglia時代の青に白帯というスタイルで、異彩を放っていました。クラス720電車の投入によって、2021年までに全車が運用を離脱し、ミッドランド地方へ転属しました。




West Anglia Main Line (WAML)

Liverpool Streetから伸びるもう1つの本線で、Cambridgeまでの90キロを結びます。他に、日本で言うところのLCCが多く発着するStansted空港を発着する列車(Stansted Express)も走ります。


Class 317

当地の主力は国鉄クラス317電車で、1981年から製造されました。基本的にはWAMLで運用されていましたが、ごく少数GEMLでも走っていました。2020年にLondon Overgroundの車両が引退すると、数編成借り入れてバリアフリー非対応編成を置き換えました。



Class 317

クラス317は製造時期によって外観が異なりました。こちらは1985-87年に投入された後期車で、前面デザインを中心に差異が見られます。前期車と併結可能で、実際にその組み合わせで運用に入ることもよくありました。クラス317についても、クラス720の投入によって、2022年に全廃されました。



Class 379

クラス379電車はボンバルディアのエレクトロスター系列の1つで、2010-11年にStansted Expressへ投入されました。荷物置き場が多めに用意されるなど、空港アクセス列車用の工夫が見られました。Cambridge発着の列車や、ラッシュ時におけるKing's Lynn発着の列車にも充当されていました。しかし、クラス720の投入によってこちらも運用を離脱し、2022年3月から保留車となっています。まだ新しい車両なので、どこかへ転用される可能性が高いでしょう。




ローカル輸送

NorwichやIpswich近郊のローカル線を走る普通列車が主で、短編成の気動車が中心でしたが、2019年には新鋭クラス755バイモード車両によって全車が置き換えられました。


Class 37

当地にも客車の普通列車が少数残っていました。2015年からは国鉄クラス37ディーゼル機関車がマーク2客車を挟む形で、NorwichとGreat YarmouthやLowestoftを結んでいました。特に、クラス37は1960-65年に製造された古い機関車で、2010年代も後半になって国鉄色のものが定期運用に就く姿は注目を集めました。



Class 170

クラス170気動車はイギリスでお馴染みの車両。1998-2005年に製造され、GA社は2連及び3連を使用していました。ある程度運用は決まっていたものの、時折下記の国鉄形気動車による代走が見られました。2020年に運用を退き、ウェールズへ転属しました。



First Class

国鉄クラス156気動車は1987-89年に投入され、スコットランド、イングランド北部、ミッドランドなどで活躍。また同世代の国鉄クラス153気動車は、単行で運用されていました。GA社ではNorwichやIpswichより海側の路線を走ることが多く、晩年はCambridge方面へ足を伸ばすことは少なかった印象です。それぞれミッドランド地方とウェールズへ転属しました。



Class 755

バラエティ豊かなディーゼル列車を一気に置き換えたのが、クラス755バイモード車両。2018-20年に製造され、3両編成と4両編成があります。バイモードの名の通り、電化区間ではパンタグラフを上げて、非電化区間ではエンジンで発電機を回して得た電力で走行し、連接台車を履き、編成の中央には電源車(通り抜け可)という日本では考えられないような構造をしています。各種ローカル線の他、NorwichからCambridgeへ向かう列車の一部はStansted空港へ直通し、クラス317電車の運用を一部置き換えました。





新型コロナウイルス感染症は、日本はもちろんのこと、ワクチン接種が進んだイギリスでも未だ猛威を振るっています。次に私たちが渡英出来る頃には、ここに載せた車両は全部新型に切り替わっていることでしょう。結果的に、とても良い記録になりました。




(2021.8.13作成、2022.8.12更新)