ガラクタのカタログ

国鉄の看板特急―2つのインターシティ


イギリスには日本と違って、基本的に特急・快速・普通などの種別はありませんが、それでも事実上の特急列車と言って差し支えない長距離列車は存在します。中でもインターシティ125インターシティ225は、鳴り物入りで登場した期待の長距離列車で、最後の輝きを放っていた国鉄の集大成とも言える存在でした。

2018年頃は、いずれも製造から30-40年が経つにもかかわらず、なお第一線で活躍を続けていました。かなり古い車両とはいえ、客車列車だからか意外と乗り心地は悪くなく、リニューアルされて案外古さを感じさせませんでした。さすがに寄る年波には勝てず、両者共にこの直後から廃車が続出しましたが、全廃はもう少し先の話のようです。

InterCity 125

インターシティ125(別名HST…High Speed Train)は、マーク3客車をクラス43機関車が挟んだ編成を組むディーゼル特急で、1975-82年に製造されました。その名の通り、日本の新幹線に負けじと最高速度200キロ(125マイル)を達成した名車であり、試運転ではディーゼル車両世界最速の時速238キロという記録を打ち立てました。


インターシティ125

ディーゼル機関車と言いつつ、日本とは違って液体式ではなく電気式なので、この巨体の中には発電機とモーターが入っています。登場当初はクラス253及び254という番号が割り当てられ、後年43に改番されました。客車はマーク3の中でも高速運転に対応したグループが別に用意されました。



インターシティ125

最初に投入されたのは西部方面で、PaddingtonからBristolやCardiffなどを結ぶ列車に充当されました。1976年のデビューから2019年までの長きにわたって活躍し、日立製のバイモード車両に置き換えられて撤退。しかし、Great Western Railwayは短編成化したものをクラス255に改番し、同年よりCardiffとPenzanceを結ぶローカル特急などに充当しています。



国鉄色

Great Western Railway所属のクラス43には、2両のリバイバルカラーがありました。写真は登場当初の塗装で、クラス253001というトップナンバー時代の車号も記されていました。2019年に廃車となり、現在はヨークの国立鉄道博物館に保存されています。
この他、同年にLNERが編成丸ごとこの色に塗り替えてさよなら運転を実施し、2021年現在は保留車としてElyに長期留置されています。



国鉄色

もう1つは通称「ツバメ塗装(InterCity Swallow Livery)」で、1987年から2000年代初頭までこの色を纏っていました。この国のリバイバルカラーは日本と違い、一般営業用車両では基本的に編成全部を塗り直すことはしないので、統一感を損ねているのが残念です。なお、この機関車は2020年に解体されました。



LNER

1977年からは東海岸本線に投入され、King's CrossからYorkやNewcastleを経由してEdinburghへ向かう列車を担当。AberdeenやInvernessに直通する長距離列車でも活躍し、晩年はLNERが運行。こちらも日立製の新型車両Azumaに置き換えられ、2019年に引退。一部がEast Midlands Railwayに転属しました。



East Midlands Trains

East Midlands Railwayの車両は、St. PancrasとNottinghamなどを結んでいます。前身のEast Midlands Trains時代の青を基調とした鮮やかな塗装が特徴的でしたが、2019年以降はLNERからの転属車によって置き換えられ見納めに。元LNER車の赤い車両もミッドランド本線の電化で2021年に引退しました。



Scotrail

スコットランドでは、ロンドン直通列車からは2019年に退いたものの、ローカル特急では今なお健在。大規模なリニューアルを施しInter7Cityと名付けて、EdinburghやGlasgowとStirling、Aberdeen、Invernessなどの主要都市を結ぶ列車に相当数が運用されています。



GWR

インターシティ125は客車列車故に編成両数の調整が容易で、扱える乗務員も多いため、ピンチヒッターとして他線の応援に入ることも。写真は元Great Western Railwayの車両がHull Trainsのクラス180気動車を代走する姿で、故障の多い180形が離脱して新型車両が入るまでの半年余り、繋ぎとしての使命を全うしました。



Flying Banana

こちらはNetwork Railが保有するNew Measurement Train、通称Flying Banana。日本で言うところのドクターイエローです。2000年頃に頻発した重大事故を受け、保線体制を確立する必要性が叫ばれたことから、2003年に登場しました。全国津々浦々で主要幹線の検測を実施し、まさに神出鬼没の存在です。なお、正規編成は全車黄色ですが、LNERなど他社で使用された機関車が連結されて混色編成を組むこともあります。



InterCity 225

LNER

東海岸本線の電化に合わせて、1988-91年に製造されました。インターシティ225は、クラス91電気機関車がマーク4客車を牽引又は推進する列車で、最高速度は225キロ。但し営業列車では200キロに制限されています。インターシティ125と違い、プッシュプルではなく機関車が下り方に1両付きます。



LNER

ロンドン側にはDVT(Driving Van Trailer)、日本語で言うところの「制御荷物車」が付いています。つまり運転台が付いた荷物車で、この車両自体には動力がありません。King's CrossとLeedsやEdinburghなどを結ぶ列車に充当され、東海岸本線のインターシティ125は90年代に入ると脇役に回りました。



Swallow

2018年には機関車1両が「ツバメ塗装」にリバイバル。クラス43に比べると白い車体が目立ちます。なお、インターシティが2019年から日立のAzumaに置き換えられる際は、インターシティ125より若い225から数を減らしました。曰く「225とAzumaが共存すると消費電力が多すぎて変電所が落ちるから」。



English, Welsh & Scottish Railway

なお、客車自体は他の機関車とも互換性があり、車両故障などで機関車が不足した際には、貨物用のクラス90電気機関車が代走する例もありました。但し、最高速度が177キロと遅いので、運用は限定的でした。新車への置き換えが進み、このような姿を見ることはもう無くなりました。



なお、インターシティ225は2020年をもってYork以北の運用を終了しましたが、LNERには2023年まで残存する予定となっています。マーク4客車についてはウェールズのローカル特急に転用されることが決まっており、クラス91は貨物列車への転用が計画されています。
他に、新設された運行会社Grand Unionがインターシティ225を丸ごとリニューアルして使用する計画がありましたが、新型コロナウイルス感染症によって今後の経済情勢が見通せないこともあって、2つあるルートのうち1つは2021年2月付で運行計画が不認可となり、更にもう1つも先行きが不透明となっています。


おまけ

マーク2客車

実はInterCityと書かれた客車列車は他にも幾つかありました。写真は2002年のNorwich駅で撮影した、Anglia Railwaysのマーク2客車です。当時はクラス86電気機関車の牽引又は推進運転で、2005年までLiverpool StreetとNorwichを結ぶ特急列車に使用されていました。
近年では、団体臨時列車用にクラス90とマーク3客車が1編成「ツバメ塗装」に塗り直されたのが話題になりました。




(2021.2.15作成、2021.10.15更新)