ガラクタのカタログ

ロンドン地下鉄その3―動態保存と引退車両編

概要

古いものが大好きなイギリス人。鉄道車両の保存にも極めて積極的で、本線を走行可能な状態に維持しているものもあります。ロンドン地下鉄は世界最古の地下鉄ということもあり、鉄道史に残る車両が今なお走れるというのは嬉しいことです。もっとも、最近の交通局は重い腰を上げて設備の近代化に取り組んでおり、保存車両は輝きを失いつつあります。

ここでは動態保存車両に加えて、最近(2010年代に)引退した車両について少しばかり載せてみました。一部は私が小学生時代に撮ったものですから、画質や構図など至らぬ点がありますことをご容赦ください。


動態保存車両

メトロポリタン鉄道E級蒸気機関車

ロンドン地下鉄蒸気機関車

1896-1901年に製造され、戦時中を除いて主に現在のメトロポリタン線の郊外区間で運用され、ロンドン交通局最後の蒸気機関車として注目を集めました。1号機は1961年に旅客営業を終了して動態保存され、節目の年に団体臨時列車として運転されることがあります。保安装置の更新によって都心部での運転は2019年が最後となり、以降に走れるのはメトロポリタン線の末端区間のみとなりました。




メトロポリタン鉄道電気機関車 "Metro-Vick"

Sarah Siddons

1922-23年に製造された電気機関車で、これも現在のメトロポリタン線の郊外区間で運用された後、A62ストック電車に置き換えられて1962年に引退しました。つまり、この電気機関車は前述のSLと合わせて、メトロポリタン線を現在走るS8ストックの僅か2世代前ということになります。1両毎に著名な人物の名が付けられており、唯一の動態保存車である12号機には18世紀を代表する悲劇女優Sarah Siddonsの名が取られています。こちらも同様の理由により、現在は走ることが出来る区間がほとんど無くなってしまいました。



旧型客車

木造客車

メトロポリタン鉄道やらディストリクト鉄道やら、詳しい出自がはっきりしない車両も多いのですが、現在動態保存されている車両は概ね1884-1900年頃に製造された木造客車で、外観はまさに「機関車トーマス」そのもの。コンパートメント式で一等車から三等車、荷物室合造車などバリエーションは豊富です。保存鉄道が所有・管理している客車を、ロンドン交通局がイベント時に借りて先の機関車と共に走らせることが何度かありました。




1938ストック電車

1938形

1938年から1121両が製造され、改造編入車や姉妹形式を含めると1376両の大所帯を誇った小型車両。ベーカールー、セントラル、イーストロンドン、ノーザン及びピカデリー線で運用され、現在も中高年の方々からはロンドン地下鉄を代表する電車と認識されています。1988年に運転を終了しましたが、現在は4連1本が動態保存されており、2019年以降はピカデリー線及びメトロポリタン線末端部でのみ不定期に運行されています。
ちなみに、2021年までワイト島で使用されていた非常に古い電車はこの1938形の改造車で、クラス483という番号が付いていました。




近年引退した車両

1967ストック Victoria

ヴィクトリア線

ヴィクトリア線開業に合わせて1967-69年に製造されました。ベーカールー線で現役の1972形とほぼ同じデザインで、実際に1972形から改造編入した車両もありました。当時は1962ストックという車両が製造されていましたが、ロンドン交通局は新線においてATO(自動列車運転装置)の導入によるワンマン運転を計画していたことから、全く新しい形式を開発することになりました。2009ストックの投入により2011年に営業運転を終了。写真は引退後にトンネル清掃車へ改造中の車両ですが、落書きなどで荒廃しきっており、この後転用工事は中止となったようです。



C69・77ストック Circle District Hammersmith& City

Cストック

1969-71年(C69形)及び77-78年(C77形)に製造された大型車両で、両開きのドアが片側4ヶ所という日本の通勤電車並みの仕様でした。サークル線とメトロポリタン線ハマースミス支線(現在のハマースミス&シティ線)に投入されたほか、ディストリクト線のウィンブルドン支線でも少数が運用されましたが、S7形に置き換えられて2014年に全廃されました。



D78ストック District

Dストック

1978-81年に製造された大型車両で、ディストリクト線に投入されました。当時は地下鉄の輸送人員が減少傾向にあったため、C69・77形とは対照的に片開きドアを採用しました。比較的新しい車両ながら輸送力に難があったため、2017年にS7形に置き換えられて全廃となりました。しかし、一部車両は大改造を施されてワイト島向けの電車(クラス484)や、気動車ないし蓄電池車両(クラス230)に転用されています。ちなみに写真は更新工事を受ける前のD78形で、無塗装アルミ車体という1950-80年代のスタイルを残した最後の形式でした。




この他に、メトロポリタン線のA60・62ストックが2012年に引退していますが、残念ながら私は現役時代の写真を1枚も持っておりませんので割愛しました。


(2020.12.4作成)