Request Stop
イギリスのナショナルレールでは、ローカル線にRequest Stopと呼ばれる駅があります。その名の通り、乗降客がいない場合は通過してしまう駅のことで、アガサ・クリスティーの小説などにも「『お知らせが無ければ停めません』駅」という日本語訳の文章が出てきます。このような駅はウェールズに多く見られますが、イングランド南西部や北部、スコットランドなどにも散見されます。日本で言うところの仮乗降場に近いのかと思いきや、ホームなど駅の設備自体はまあまあ立派で、他のローカル線の駅と見分けがつかないこともあります。
旅客案内における扱いも一定していないため、知らない人が見ると更に混乱を招きます。大きな駅での構内放送では、しばしばRequest Stopであることを明示した上で停車駅として読み上げ、降りたい客には事前に車掌に申し出るよう促します。しかし、車内放送では「主要停車駅」のみ読み上げて小駅には言及しないことも多いです。時刻表だと、駅一覧に載っていないこともあれば、Request Stopである旨を小さく添えて記載されていることもありますが、一般駅と変わらない書き方をしていることもあります。観光客が利用する駅には少ないと思いますが、例えば日本人に人気なコンウィ城のすぐ近くにあるConwy駅も該当するので、ちょっと注意が必要です。
やって来たのはLlandudno駅の隣にあるDeganwy駅。昔と違って今はこんな小さな駅でも、電光掲示板の案内が出るので楽になりました。This train stops on request onlyと書いてありますので、客がいなかったら停車しないと分かります。列車はかなり低速で進入していましたが、この時は夜で天気も悪かったので、懐中電灯を振って運転士に合図しました。
Please signal clearly to driverと言っても、日の出ている時間帯なら手を振れば十分そうです。ただ、もし列車が遅れている場合、「なかなか来ないな~」と余所見をしていると何時の間にか列車が通り過ぎるという悲劇もありますので、油断大敵です。
ところで、下段にある3rdの列車を見てみると本来は20時33分発予定だったのですね。一枚上の写真と合わせると、しっかり40分余り遅れていることが分かります。ちなみにこの日、2ndに該当するはずの列車は例によって運休でした。
Deganwy駅にやって来たのは、クラス67機関車とマーク3客車による普通列車を撮るためだったのですが、あまり良い写真にはなりませんでしたね。ホテルへ戻るために対向列車に乗ろうとしたところ、ほぼ同じ編成の客車列車がやってきました。なお、マーク3客車は既に引退した上に、当地の普通列車は全て気動車に置き換えられており、この姿はもう見ることはできなくなりました。
車掌はこんな時間帯に外国人観光客がいたことに驚いた様子で、色々話を聞かれました。何でも私がこの列車唯一の乗客だったそうで、数分ばかりですが少し楽しい時間を過ごせました。ちなみに、車掌曰く運転士はRequest Stopでもちゃんとホームを確認しているから、客が乗りそびれることは無いと請け合ってしてくれましたが、私個人はこの言葉を信用出来ないと思っています。やり過ぎなくらいに合図した方が絶対良いでしょう。
Llandudno駅に到着。客車5両にディーゼル機関車という組み合わせは、このローカル線にしてはどう見ても輸送力過剰ですが、どうやらマンチェスター行きの間合い運用だったようです。私はRequest Stopの存在自体は20年以上前から知ってはいたものの、実際に敬虔することになるとは思いませんでした。手動ドアとの組み合わせは、まさに前近代的な体験で、なかなか面白かったです。
ちなみに、30年ほど前には駅にボタンを設置して信号機を操作することも検討されたようですが、設置費と維持費に加えて悪戯や破壊行為が懸念されたことから、実現には至らなかったようです。多分今後30年経っても様子は変わらないことでしょう。
(2022.10.21作成)